Christophe Charles(クリストフ シャルル)
プロフィール
1964年マルセーユ(フランス)生まれ。筑波大学(1996年)、フランスINALCO(1997年):博士課程修了。武蔵野美術大学映像学科教授。現代芸術における理論的・歴史的な研究を行いながら、内外空間を問わずインスタレーション及びコンサートを行い、それぞれの要素のバランス、独立性及び相互浸透を追求している。 CD(Mille Plateaux, Subrosaなど): “In Memoriam Gilles Deleuze” (1996年)、”undirected 1986-1996″ (1996年)、”undirected/dok” (2000年)、”undirected 1992-2002″ (2003年)、”HCDC” (2013年)他。パブリックアート:大阪市住まい情報センターモニュメント(山口勝弘監修)音響担当、東京成田国際空港第一ターミナル中央アトリウム常設サウンドインスタレーション。山口勝弘、風倉匠、Henning Christiansen等とのコラボレーション多数。
http://home.att.ne.jp/grape/charles/
楽曲
microguitar
コメント
坂本龍一氏の音楽は、1980年代初頭から私にとってのレファレンスであった。LP「左うでの夢」(1981年)は、生活音や動物、伝統楽器などの含まれた電子音楽への新しいアプローチを提案しただけでなく、ジャケットアートや写真、メイクアップなど、当時の日本のアヴァンギャルドを反映したヴィジュアルアーツを表現している。その数年前、私は磯崎新の「間・日本の時空間」展(パリ、1978年)に魅了され、1979年には小杉武久に出会っていた – 日本での生活を後押ししてくれた3つの重要なエピソード。2000年代には、幸運にも半野喜弘氏と出会い、彼の作曲した曲の解体・再構築や、「unfinished」のコンピレーションに参加することになった。ピアノ、電子音、アンビエントサウンドのユニークなブレンドで、「左うでの夢」からすでに生まれていたあの独特の風味を持つ「hoon」(半野氏と坂本氏のコラボレーション)の素材を扱わせていただいたのは光栄だった。作曲の調性は、意図的に全力を展開せず、背景にとどまる水彩画を思わせる。静寂や鈍い音に敬意を払いながら、乾いたユーモアのセンスでとても遊び心のある、謙虚さが際立つ音楽である。その純粋さは、環境問題や政治問題に取り組んでいる坂本氏の姿勢と通じるものがある。
2000年代以降、電子音楽、デジタル音楽、ビジュアルアートの若手アーティストとのコラボレーション作品において、比類なき音色と時間性をもたらしてきた。また、ピアノを、どんな電子音にも対応できるメロディアスな楽器として再認識させた。坂本氏は、電子音・デジタル音を多用するようになってからも、ピアノへの愛着を捨てずにいる。坂本氏のピアノを使った作品は、ジョン・ケージの「Number Pieces」に例えることができるかもしれない。1960年代から70年代にかけて荒々しい電子音の実験を行った後、ケージはピアノやヴァイオリンのような「伝統的な」楽器を自分の音楽の中に復活させることに熱心だった。偉大な先人と自分を比較するのはおこがましいが、1990年代から2000年代にかけて電子音を中心に使っていた私は、いわゆる「アナログ」の音、特に幼少期から惹かれていたギターの音に再び興味を持った。また、多くの人が使っているクラシックな楽器(ピアノ、ギター)の音楽を構想・制作し続けることは、別のアイデアやアプローチを提案する上でも重要だと感じている。伊達伯欣氏が言う「マイクロ・アンビエント」とは、意図的に限定されたスペクトルの素材にディテールを求めることであり、しかし注意深く吟味すれば、異なるものを繰り返す(repeat the different)しかできないため、無限の可能性が見えてくるということに相当するように思う。そこで、伊達氏の考える「マイクロ・アンビエント」に対応し、揺らぎ続ける調性によって耳に複数のバリエーションを提供するようなギターのための曲を、坂本氏なら慈しんで聴いてくれるだろうと思い、この作品を選んだ。
クリストフ・シャルル、東京、2023年6月15日